きーん パイプカットしたってよ ~パイプカット体験記~


はじめに


一般的に、避妊に関する意識・知識には男女間の隔たりがあります。

女性は普段から妊娠の可能性を念頭に置いて備え、否が応にも避妊の知識を身につけます。出産後も入院期間に必ず助産師さんからの避妊指導があり、産後一年未満の妊娠が体に大きな負担をかけることや、IUD・卵管結紮(けっさつ)等の避妊手術についても説明されます。 

一方、避妊手術について具体的に意識し知識を得る男性はどれぐらいいるでしょうか?

前述の避妊指導は母親のみが対象でした。妻は3人産んだので3回説明を受けましたが、僕はゼロです。環境の時点で明らかな知識格差があり、知りに行く意識を持たない男性の多くは何も知らないままでいることも多いと思います。

ある日、身近な友人からこんな話を聞きました。
「夫が避妊手術(パイプカット)に乗り気でなく、私がIUDを入れればいいと言ってくる」

男性が避妊手術をした方がリスクもコストも圧倒的に少なく済むのに、そこに思い至らない男性が本当に多い。意識・知識の格差が本当に大きいのです。

本稿はそんな、避妊手術について全く知らない男性、知ってるけど怖がっている男性、面倒なので妻側で避妊してほしいと思っているクソ野郎など、とにかく全ての男性に知識を提供し、選択肢を増やし、素敵なセックスライフを手助けする目的で綴ります。

なお、僕自身がつい最近までその「何の知識もない男性」でした。
一緒に「知らなかった自分」を変えていきましょう。

※未成年の方が読んで害があるような内容は書いていないつもりですが、セックスにまつわる話を含むので、18歳未満の方は保護者の方と相談の上でお読みいただければと思います。
 

 

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【きっかけ】

セックスはテクニックではなくコミュニケーションだ。

日ごとに異なる相手の心と体の状態を慎重に探り、色んなルートを工夫しながら、お互いという”山”を登る。ただ、必ずしも山頂がゴールではない。相手が求めているゴールを相手自身が知らないこともある。それを探り当て、満たした時、自分自身もこの上なく満たされる。

僕にそんな感覚を与えてくれた、いわば『初めての人』は妻だった。

妻に出会って初めて、劣等感も強迫観念も感じずにセックスができるようになったし、他の誰も代わりになる人はおらず、必要ともしなくなった。妻もまた同じで、端的に言って相性がめちゃくちゃ良い。

そんな二人だが、セックスにおいてどうしても支障になることが出てきた。避妊方法だ。

幸いにも3人の子に恵まれた我が家は、妊活終了で合意。避妊フェイズに入った。しかし、妻は三度の壮絶な出産を経て陰部の下側に裂傷の跡が残り、コンドームの端が触れることで痛みを伴うようになってしまった。僕は僕で、コンドームがついた状態で勃起状態を長く維持できる年齢ではなくなってきた。

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40代の現実


よくよく考えたら、お互いこんなに好きでお互い以外に興味なくて病気もない安全な相手なのに、なんでゴムに隔てられてるんだっけ?

そんなことを何度か話し合っている内、僕ら夫婦の間には自然とサウンド・オブ・ミュージックの名曲『My Favorite Things』が流れ始め、そして口を揃えてこう言った。

「そうだ パイプカットしよう」

こうして2017年にパイプカット手術を受け、術後1年が経過した。

今回そのナレッジを皆さんに共有するわけだが、パイプカットについての知識を教えてくれるサイトはたくさんあるので、そこは最低限の紹介とし、

「何を基準に病院を選べばいいの?」
「痛いの?」
「術後の影響は?」

など、僕が知りたかったことや、いただいた質問への回答形式で書いてみたいと思う。


【そもそもパイプカットってなに?】

パイプカットは男性の避妊手術で、射精時の液体に精子が含まれないように精管を縛ることである。簡単に仕組みを解説。

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精巣から尿道までの旅路

射精は、
①精巣で作られた精子が ②精管を通じて
③精嚢で作られた精嚢液と混ざり、さらに
前立腺で作られた前立腺液と一体になって
尿道から射出されるシステム。

つまり精管を切ってしまえば精子が送り込まれることはなく、精嚢液と前立腺液が混ざっただけの液(精漿という)が出ることになり、生殖機能はなくなる。これがパイプカットの仕組みだ。

実際の手術は睾丸の裏側あたりから精管を引っ張り出してカットし、切れた両端をキュっと結ぶ。再生の余地を残さないなら、切った精管の先端をさらにレーザーで焼く。

ちなみにパイプカット手術は日本語では精管結紮法(せいかんけっさつほう)というピッコロさんの必殺技のような名前がついており、大変かっこ良いので何回でも言いたくなる。

 

【避妊効果は?】

手術が成功し、1ヶ月後の検査で無精子状態が確認された場合、その後の避妊率は100%と思って良い(と医師が言っていた)。統計的には99.9%とされているが、これは術後間をおかず性交渉に及んだケースや、縛った精管が奇跡的に再生して繋がったケースを含んでいると思われる。レーザーで精管を焼いて検査まで耐えればまず起こりえないし、起こったらもうそれは「天命だ」と思うしかない奇跡。ロトも当たるはず(スピッツ)。

 

【精液は水っぽくならないの?】

これは最もよくある誤解だが、手術前後で全く変化はない。

そもそも精液の粘度は精子の数とは無関係で、精嚢液と前立腺液の状態や配分で決まる。精子をカルピスの原液みたいに思ってた人(僕です)は全然違うし、「ドロドロか…よし今日は精子濃いんだな!」と思ってた人(僕です)も全然違う。

そもそも男性が精液の濃さを健康や男らしさのバロメーターにする傾向があるのが謎だけど、何を考えていたのか、頭痛がして昔の自分が思い出せない。

 

【誰でも受けられるの?】

「既に子どもがいてこれ以上望まない」ケースが推奨されているが、最初から子どもを持つことを望まない・妊娠により何らかのリスクがある等の場合は子どもがいなくても受けられる。いずれにせよ基本的には配偶者の同意書が必要になる。

離別もしくは死別している場合どうすればいいのかは僕も分からないので、その場合は医院に問い合わせを。


【どこで受けられるの?費用は?】

泌尿器科か美容・形成外科。
手術費の相場は5万~15万で結構幅があり、僕の場合は泌尿器科で税込54,000円 + 交通費 + 検査郵送費(切手代)だった。疾病ではないので保険適用外。

なお、泌尿器科なら安く、美容・形成外科なら相場は高くなる。

【どういう基準で病院を選べばいいの?】

ちゃんと手術実績のある病院なら、お値段と場所の都合で選んでしまってOK。

僕は今回、相場の中では最安値の5万円(+税)の泌尿器科を選んだが、手続き上の不備も手術の不手際もなくスムーズに終わった。

ぶっちゃけそんな複雑な手術ではないので、手術中に医師が突然失神、酒盛り、思い出し笑い、4回転トゥループ等をし始めない限り問題は起こらないと思う。少なくとも価格によって成功確率が変わるようなものではない。

なお医院によっては「痛くない麻酔」が有料オプションで選択できる模様。が、はっきり言ってそんな痛い麻酔ではないし、ほんの数秒のこと。麻酔に何万も使うぐらいなら、お連れあいの無痛分娩費用に充てたり、手術の帰り道においしいもの買って帰ったりしよう。

 

【事前に必要な準備は?】

僕はWeb予約&事前診察なしで当日いきなり手術だったが、病院によっては電話予約だったり、事前に一度通院しての診察が必要だったりする。

いずれにせよ配偶者がいる場合は同意書を持参する必要があり、ホームページがある病院なら同意書フォーマットがダウンロード・印刷できるようになっていることが多い。

剃毛は当日手術前に医院で処理してもらえるが、事前の剃毛を指示された場合は、竿の下から玉の裏側にかけて剃っておくと良い。僕は指示されなかったけど几帳面なので剃りました///

 

【当日の持ち物は?】

・配偶者の手術同意書
・(念のため)保険証

パイプカット手術自体には保険がきかないが、万が一、手術時や手術後に何か問題が起きた場合への備えと、おそらく身分証明的な意味で持参するよう求められる(多分)。

服装は術後のことを考えて念のため、Gパンなど下腹部への圧迫が強いものは避けておくと良い。手術衣に着替えるので脱ぎ易さとかは気にしなくても大丈夫。

 

【当日の流れは?】

受付:5分
医師からのヒアリング・説明:20分
手術:準備~完了まで含め20分
という感じで、どんなに長くても1時間あれば終わる。

医師からは配偶者の同意書確認と本人の最終同意確認、手術の仕組みの説明、オッス!精子はカルピスの原液じゃねぇから心配(しんぺぇ)すんな!っていう励ましをもらい、大抵の人は手術の緊張感よりもその事実への驚きに心を支配されると思う。

 

【手術はどんな感じ?痛い?】

剃毛・麻酔:5分
手術:10~15分
麻酔は陰嚢の裏にホチキスみたいなやつでカチャンてやる部分麻酔。
何回かやるけど、大した痛みではない。

その後、陰嚢に小さな穴を開けて精管を引っ張り出し、結ぶ。
痛みの度合は人それぞれだし勿論痛いことは痛いけど、最大値で言うと正直なんてことない。

ただ、精管を引っ張り出して施術するので、傷の痛みよりも引っ張られる内側の痛みが手術中ずっと続く。当然ながら全員が初めての経験なので、「どこまで引っ張り出されちゃうんだろう、わたし…」という恐怖感はあると思う。

結果的にはそんな激痛になるほど引っ張り出されず、「あ、もう終わり?」ぐらいの感覚で終わるので心配しなくて大丈夫。

勿論痛みも恐怖もあるのだけど、胎内で育てた巨大な生物を排出した上に内臓(胎盤)を掻き出される出産に比べれば、数ミリの精管を引っ張り出される程度なので高が知れている。

正直こんなに楽な手術だとは思っていなかった。わずかな痛みで快適なセックスライフを得られる上、知人に「精管結紮法」という言葉を連呼できるなんて、世の男性諸氏も是非このチャンスを逃さないでほしい。

なお、レーザーで焼かれる熱さも麻酔越しにうっすら感じる。
これはそんなに痛くないし、「ピッコロさんの魔貫光殺法で焼かれている」と思えばちょっと楽しい。自分でもちょっと何言ってるのかよく分からない。

 

【術後はどう過ごすの?副作用は?】

「俺は…俺はパイプカットしたんだ!」と余韻に浸る間も与えてもらえず、術後10分後には普通に歩いて家に帰れてしまう(もうちょっと安静にさせられる病院もある)。

当日は風呂には浸からずシャワーのみだが、翌日以降は普通に暮らせる。インフルエンザの予防接種みたいな感じ。

副作用として、人によっては睾丸が一時的に腫れ、痛みを伴うことがある。元々使わない精子は体に吸収されていく仕組みだが、一時的に製造量と吸収・射出量のバランスが崩れるせいなのかな?と勝手に想像しているが、単に傷に対する炎症作用かもしれない。

僕も10日ほど右の睾丸がズーンと重く痛かったが、妻から「右の睾丸が痛ければ左の睾丸を差し出せ」と意味の分からないことを言われ、なるほど...?と思っている内に痛みは収まった。

精管をふさぐと精巣が徐々に精子の製造自体を抑制していくためだと勝手に想像しているが、単に炎症が収まっただけかもしれない。

逆に言えば、一度パイプカットすると製造能力自体が下がるので、たとえ後で精管の結合手術をしても生殖能力が復活しない可能性が高い。ご利用は計画的に。

痛みは長い人でも2週間程度。以降も痛むようであれば手術を受けた病院に連絡を!

 

【いつからセックス可能?】

痛みが引けばセックスすること自体は可能だが、検査で無精子状態が確認されるまでは避妊が必要になる。1ヶ月後、および1年後に郵送または通院で検査してもらう。

1ヶ月後の検査で無精子であれば、奇跡が起こらない限り1年後も開通したりしないので、避妊なしでの性行為は初回検査の結果が出た後にすれば安全。(もちろん、感染症対策は別の話)

なお、最初の検査用精液を採取する前には2回ほど事前に射精しておく必要がある。精管を下図A地点で切断・結束したとして、そこから精嚢や前立腺までの間に既に出荷されていた精子が残っているためである。

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こんな図解をする日が来るとは思わなかった

個人的にはこの計3回の射精作業がかなりしんどかった…。
40にもなると射精はとても重労働で、出せなくはないけど射精後の疲労感がすごい。セックスでも射精することはそんなに多くないので、2,3週間に3回抜くのはとても辛かった。

 

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おわりに

本稿はパイプカットの知識・体験を共有しハードルを下げるために書いた記事ではありますが、避妊手術というのは勿論、夫婦の話し合いと決断の下でおこなっていただく必要があります。

とは言え、一度決断したならば、女性の手術より男性の手術の方が圧倒的に楽です。

女性のIUDは数万で施術できますが、定期的なメンテナンスが必要で、撤去時にも費用がかかり、そもそも体内に入れるので異物への拒否反応を起こす方もいます。

卵管結紮はお値段も張りますし、お腹にメスを入れ、お産で傷を負った体にさらに負荷をかけることになります。

一方で、パイプカットは睾丸が露出しているおかげで最低限の処置で済み、一瞬で日常生活に戻れることを今回知っていただけたと思います。

勿論、何らかの事情でお連れ合いが子宮を摘出する必要がある、とかならまた話は別ですが、そうでないなら男性側が処置した方が圧倒的にローリスクです。ぜひ一緒に「精管結紮法」を連呼しましょう。

あなたに良いセックスライフが訪れますように。

きーん

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アルテイシア先生の「オクテ男子のための恋愛ゼミナール」を読んで僕たち夫婦のセックスライフは100倍充実しました。男性が読んでも女性が読んでもためになるしエロみが増幅されるし読み物としても面白いです。ぜひ。

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【宣伝②】
ご質問・ご意見をたくさんいただいたので、補足記事を書きました。
よろしければあわせてお読みいただけると幸いです。
パイプカット 横から切るか 下から切るか ~体験記補足~」